「…観ないの」
一番後ろの、通路側の席。
あえてその席を指定したのにはきっと理由があるのだろう。
隣には、席指定をした張本人がミルクティを手にして座っている。
「折角だから観てみればいいのに」
ダンゴは俺に見向きもしないで、「ケイコ」が泣き喚くのを静かに見つめていた。
正直、「ケイコ」よりその無表情のほうがこわい。
「着信拒否4」―――映画自体はバッタもんらしく、観客は少なかった。
さっきからボソボソ無駄話ばっかしてる俺らを気にするような観客も居ない。
ダンゴもダンゴで、映画自体には全く興味はないらしく、適当に観てるくらいだ。
そんな映画に本気でビビってんのは俺だけ。
「ぜってー観ねえ」
バッタだろうがカマキリだろうが、いやなものはいやだ。
わざわざ怖いものを観に押し寄せるやつらの心理が理解できない。
みんなでワイワイ楽しむ形ばかりの肝試しは別だけど――とは言っても、あの夜のトイレ待機だってめちゃくちゃ怖かったっつの。


