「なんで?」



 好きな人の過去を知るなんて、ドラマとかでも結構ある展開。



 だけどだいたい予想がつくから、よけいに辛い。



 それでもちゃんと、本当のことが稚尋の口から聞きたかった。




 言って欲しかった。





 澪は折れそうな心を庇いながらも、必死に言葉を紡いだ。


 しかし、返って来た言葉の反動はあまりに大きすぎた。




「それは、言いたくないんだ……たとえ姫でも」



 澪にも言えない、稚尋と暎梨奈の過去。



 緊張の糸は、今にも千切れてしまいそうだった。



 稚尋がおもむろに立ち上がる。


 そんな稚尋を、澪は目で追った。



 その瞳に、輝きはなかった。




「俺……どうかしてた……姫の本音なんて、最初っからわかってたのに…………ごめん。ちょっと頭冷やしてくるな?」



 そう言って、稚尋は澪に背を向けた。



 その瞬間、澪の瞳から堪えていたものが、一気に流れ出した。



「何でよ、なんで……私が好きなんでしょ? 私、えりの親友なんだよ……?」





 ピタリと一瞬、稚尋の足が止まった。



 やだ。


 私、何言ってるの?

 こんなこと言っちゃだめ。

 これじゃ私、ただのめんどくさい女になっちゃう……。



 だけど、歯止めがきかなかった。



 そんな澪に背を向け、稚尋は力無く笑い、言った。




「親友だから、尚更言えねぇよ……」




 涙で視界が歪む。


 カッコ悪い。



 冷たい扉の音が、無情にも澪の耳に届いた。



「なんでよ……稚尋」



 涙がとまらなかった。






★恋の進展


【END】