―いいよ―
その言葉が澪の口から発せられるのを、稚尋はただ待っていた。
そんな稚尋に澪は言った。
「……やっ……やめてよ!」
稚尋には、現実が受け入れられなかった。
ほろ苦い過去が、稚尋の頭の中を駆け巡る。
「姫……」
再度チャレンジするものの、結果は同じだった。
「嫌っ……!」
そう言って澪は稚尋を突き飛ばす。
稚尋を拒んだ女の子は、“あの人”以来初めてだった。
「その顔、好きだな…」
だから余計に欲しくなった。
どんな卑怯な手を使っても、手にできなかった過去を拭い去るように。
“あの人”と、澪を、稚尋は重ねていた。
「嫌だったらっ!!」
どんなに拒まれようとも絶対に手にしてみせる。
“あの人”と澪を重ねていた稚尋は、澪の強気な態度に彼女が強い女の子なのだと思い込んでいた。
けれど、それは違った。
「……!」
澪は稚尋の目の前で、ボロボロと涙を流した。
稚尋もそれには流石に驚いた。
「泣くなよ……」
ああ、そうか。
そんな澪の姿に、稚尋は妙に納得していた。
稚尋は、澪をてっきり男好きの男たらしだと思っていた。
今まで相手をしてきた女がみんな口を揃えて同じようなことを言っていたせいもあった。
けれど、違ったみたいだ。
初な彼女は本当にすぐ泣く。
だから“泣き虫姫”なんだな。
事実がわかった途端、稚尋はどうしようもない愛しさを感じた。
今まで感じたことのない、胸のつまるような感覚だった。
突然の涙に動揺した稚尋は、気まずい空気に思わず視線を泳がせる。
たった今、初めて自分が一目惚れした女の子。
こんなことも初めてだった。
ゆっくりでいい。
君から俺を求めるまで、俺は待ってみよう。
絶対、俺は君を手に入れてみせる。



