「薫」





「稚尋っ……」





「可愛いよ」
















 耳を塞いでしまいたかった。



 稚尋は相手の女の子を挑発しては囁き、自らに溺れさせた。



 こんな光景を生で見たのは初めてだったけれど、恥ずかしい気持ちよりむしろ、悲しい気持ちの方が大きかった。







「薫……」





「稚尋……」


 聞いてはいけない。



 そう思っていても、何もすることが出来ずにいた。











「いい子だ……」





 二人の姿がコンクリートに隠れてしまった後、澪は瞳を閉じた。





 相手の女の子の顔が頭からはなれない。






 そしていつしか、二人はどこかへ行ってしまった。








 稚尋は、いつもああやって……。



 稚尋が謝ったあの時の顔を、澪は思い出していた。










 “ごめん”


 あの時の稚尋は、本当にただの無力な男の子だった。





 それなのに。



 さっきの稚尋は、ただ強引で……私の知らない稚尋。





 知っていたはずなのに、何で……涙が出るんだろう。


 私は稚尋が大嫌いなはずなのに。




 稚尋、あなたは王様だね。


 皆を言いなりにして、私の好きだった人もみんな、みんな利用して好きなように生きる。




 最悪、最低だよ。







 それなのに。




 どうして……涙が止まらないんだろう。



 もう、自分の気持ちがわからないよ……稚尋。






 澪は、溢れる涙を拭い、ポケットの中のハンカチを強く握りしめた。










★馬鹿みたいじゃん


【END】