「行ってきまーす」


ローファーを履いて、玄関からリビングに向かって声をかける。

すると母がひょこっと顔をだしてきた。


「行ってらっしゃい。気をつけてね」

「うん」


この頃は「おはよう」も「行ってきます」も、自然に言えるようになってきた。

以前は自分から両親に声をかけることがない日なんて珍しくなかった。

そう言う気持ちになれなかった。


だけど、あたしは変わった。

ほんの少しでも歩み寄る努力をすれば、結構簡単に近づける。

みんなあたしの側でずっと待っててくれたから。

あたしが手を伸ばせば、すぐ触れられる距離に。