でも、そんなことは噂だ。
森谷や辻さんが、直接その場に居合わせたわけじゃない。
あたしは、自分が好きになった人だけを信じる。
――それにしても。
お父さんから貰ったこの一万円、どうしよう。
返したあとで、あたしの耳のピアスを見たら、絶対に“どうやって開けた?”って訊いてくるに違いない。
「奈緒、ピアス見せて?」
帰ってきたあたしに、お母さんが待ってましたと言わんばかりに駆け寄ってくる。
「……今日は開けられなかったんだ。病院……休みで」
「休み? 金曜日が休みの病院なんてめずらしいわね」
「うん……、よく分からないんだけど……」
苦しい言い訳を、お母さんはすんなりと信じる。