「あー、考えるだけ、無駄なことじゃん」



俺は、いつもの太い黒縁フレームの眼鏡を手に取りかける。



一呼吸置いてドアを開き、もう一枚リビングの扉を開く。



いつものソファーに、苺が体操座りで小さくなっていた。



なんか、二つ折りのケータイみたい。苺は細い体だから。



……なんて、こんな時でも思ってしまうのは、きっとこの、『神尾苺』っていう、人類イチ変な女のせいだ。



隣に座ると、軋むスプリング。苺は、ゆっくり、ゆっくりと顔を上げた。



いつもの眠そうな、瞼の奥の、真ん丸な黒目。



真っ直ぐ、真っ直ぐ真っ直ぐ、いつも俺を見透かす目。



初めてコイツを見たとき、俺はこの目がキライだった。