『髪を切ってくれたら許したげる』 いつだったか、あいつがわたしに言った。 今日みたいに蒸し暑くて、空には飛行機雲が浮かんでいた。 いつだったかなんて言いながら、しっかりあいつの言葉一言一言まで覚えている。 夕日が差し込む教室で、わたしは彼の背中に回り、髪に手を伸ばしたんだった。 忘れなければいけない事なのに、いちいち思い出してしまう。 あいつは、“ミサキ”を追うためにわたしから離れた。 そんな奴、こっちから忘れてやるべきなのに。 「はい。出来たわよ。 梓を呼んできてちょうだい」