わたしは、ただ頷く。 「あの頃の匂いがする」 公平は、ボールを鼻に近づけ目を閉じた。 その瞼の裏には、誰が一番初めに浮かんだのだろう。 どんな事を思い出しているのだろう。 「体育祭でさ、もう一度おまえにこれ渡した時、正直俺、泣きそうだったんだ」 静かに公平が言った。 「なんでかよくわかんねぇけど、なんか泣けてきた」 『まぁ、今なら少しわかるけど』 公平の声は、わたし達の頬を撫でる風と共に、ふわりと何処かへか消えていった。