イジワルな恋人



【亮SIDE】


あまりに素直な笑顔が返ってくる。

何も悩み事なんかないように見える奈緒の笑顔に、思わず声をかけた。


「……なぁ」

「なに?」


笑顔を向ける奈緒の髪を、少し暖かくなった風がすくっていく。


「……」

「ん?」


『おまえ、なに隠してんだよ』

その一言が、なかなか言えない。


思いやりだとか他人を気遣うとか……、まったく皆無だったハズなのに。

もしも、こいつを傷つけたら……。

なんて気持ちが、俺の言葉を止める。


「あー……だせぇ」


自分自身にそう言いながら空を仰ぐと、すぐに奈緒の文句が飛んでくる。


「もー、意味わかんない」


俺の態度に奈緒が少し膨れてため息をついた時、機械音が響いた。


pipipi……。


「あ、メール」


奈緒がスカートのポケットからケータイを取り出す。


「……やっぱり」

「なにが?」

「体育祭、タイムのいい人がリレーのメンバーになるって決定したんだって。

それであたしも入っちゃったみたい」

「おまえ速いの? 合気道できるし意外と運動神経いいんだな」

「別に普通だよ」