イジワルな恋人



「でも……、佐伯さんいつも遊びまわってたし、きっと何もないですよ」


店長が行った後、黙り込んでいたあたしに、香奈ちゃんが気を使ったように笑顔を向ける。


明るく声をかけてきてくれた香奈ちゃんに、あたしも微笑んで見せた。


その直後から急にお客さんが増えて、そんなに深く考え込むことはなかった。


それでも、店長の言葉が胸を騒がせる。

肩を震わせて泣いていた佐伯さんの姿が頭に浮かぶ。


あたしの見た、最後の佐伯さんの姿……。


思っていたよりずっと弱かった佐伯さんを思うと……

胸が軋むように痛く苦しくなる。


だけど、あたしに出来ることなんてなくて……。

きっと……、あたしに佐伯さんは救えない。


あたしが亮に救われたように、佐伯さんにも誰か現れてくれたらいいのに。


誰か、佐伯さんを……。


そう思うのは、都合が良すぎるのかな……。

だけど……佐伯さんが今でも1人でいる事を思うと、そう願わずにはいられなかった。