「……先輩?」
「桜木と何かあったのか?」
先輩が真剣な顔をしているのが、街頭の少ない暗い道でもわかった。
普段の優しく落ち着いた声とは違う、
告白された時と同じ真剣な声が、あたしの動きを止める。
「……何もないですよ?」
真剣な目から、視線を逸らしながら笑う。
「嘘だろ」
必死に取り繕った笑顔を、先輩の言葉が困惑させる。
「……本当に、何でも」
「水谷。……水谷の顔見たら分かるんだ。
ずっと見てきたって言っただろ?」
「……」
困り顔で微笑む先輩に、あたしは声をなくしてうつむく。
だって……
じゃあ何て言えばいいの?
『亮が他の子とキスする約束をしたんです』って、そう言えばいい?
……言葉にすると、なんて簡単なことなんだろ。
ただ約束をしただけで、実際にした訳じゃない。
全然たいした事じゃないのに……っ。



