「あれ?」
家までの道を歩いていると、後ろから声をかけられた。
少し放心状態で歩いていたけど、いきなりの男の声に、少し警戒しながら振り向く。
「あ、やっぱり」
そう言って、優しく笑ったのは……。
「中澤先輩……」
自転車に乗った中澤先輩だった。
振り返ったあたしに、先輩は微笑んでから自転車を降りてあたしの隣に並ぶ。
「どうしたの? こんな時間に」
「……バイトだったんです」
「そっか。大変だな。もう遅いし送らせてよ」
先輩の優しい笑顔に、少し返事に困ってから、頷いた。
あたしの隣を、中澤先輩が自転車を押しながら歩く。
細い静かな道で、先輩の自転車のカラカラという音だけが寂しく聞こえていた。
地面はやっぱり濡れていて、たまに小さな水溜りがあった。
心細い月明かりに、水溜りが小さく反射する。
「水谷、桜木とはうまくいってるの?」
中澤先輩の口から出たのは……、
今、一番聞かれたくないこと。
「……」
黙ったままのあたしを見て、中澤先輩は足を止めた。
それに気付いて、あたしも足を止めて先輩を振り返った。



