イジワルな恋人



「……先輩、それキスマークですよね?」


ジュース補充をしてカウンターに戻ると、香奈ちゃんが小声で話しかけてきた。


「……うん」


キスマークのことなんてすっかり忘れていたあたしは、首元を押さえながら答える。


「桜木さんとラブラブですもんね! 

あたしも先輩みたいにめちゃくちゃ大切にされてみたいなぁ。桜木さん、普段クールだから余計わかるんですよね。先輩が特別なのが」


笑顔で言う香奈ちゃんに……うまく笑えなかった。

心の底にある不安が邪魔をして。





その日は、21時でバイトは上がりになった。

夜からはバイトの人数も増えたからって、店長のはからいで。


バイトを終えて外に出ると、雨はもうやんでいて……傘を持ってなかったあたしは安心して歩き出した。


……~♪

歩き出した途端、鞄の中でケータイが鳴った。

暗闇に浮かぶディスプレイには『亮』の文字……。


……~♪

人通りの少ない細道に、ケータイのコールが寂しく鳴り響く。

一呼吸置いて……、少しためらってから電話にでた。



「……はい」


雨がやんだばかりなのか、地面が濡れている。

少しむっとした暑さの中を歩きながら、亮の声を聞いてた。


『奈緒?! なかなか繋がらなかったけど……なんかあったのか?』


ケータイから聞こえる亮の声は、本当に心配してくれてるみたいだった。

……北村さんに聞かなかったのかな。


そんな事を思いながら重い口を開いた。