「佐伯さんがやらないからこんなにたまっちゃったんじゃないですか!」


ムキになって言った香奈ちゃんに、少し驚いた。

普段、おとなしい香奈ちゃんが、ここまで怒ってるなんて……。

よほどため込んでいたモノがあるっていう事で。


そう思うと、可哀相で胸が痛む。


「これからやろうと思ってたんだって。

っていうか、洗い物って地味であたしに合わないんだもん。ネイルはげるし」


悪びれもしない佐伯さんの態度に、香奈ちゃんが手を握りしめる。

そんな香奈の拳を包むように握った。


香奈ちゃんは驚いてあたしを見て……、黙ってまたグラスを拭き始めた。


佐伯さんと本気で接する方が損だから。

そんな気持ちが、あたしの苛立ちを抑えていた。


洗われているグラスが、カチャカチャと音を立てる。


「それよりさぁ……」


洗い物をする後ろで、佐伯さんが話を続ける。


「あたし、亮くんの事、絶対落とすから」


その言葉に……、2人の手がとまった。