イジワルな恋人



「……っ」

「……嫌か?」


真剣な表情を浮かべながら聞いてくる亮に……、何も言えなくなって、開けた口を閉じる。

そして唇をきつく結んでうつむいた。


ドキドキしすぎて……、

亮の顔を見ていられなかった。


『嫌か?』ってそんなの、嫌、じゃないけど……。


でも、まだ心の準備が……。


うつむいていたあたしの顎が上げられて、亮の唇があたしの唇を再び塞ぐ。



「んっ……あ、き…、」


『まだ心の準備が……』

だけど、このキスに……、

流される……。



長いキスが、二人の息を乱れさせて、従業員室を甘い雰囲気に変えていく。


「……奈緒」


低い声が、頭をしびれさせる。


静かな従業員室には、二人の呼吸だけが聞こえていた。

視覚も聴覚も感覚も、全部が亮で埋め尽くされて……。


距離を作った亮があたしを見つめる。完


全に途切れた思考回路に、ぼーっとしながら亮の瞳を見ていた。