「……佐伯さん、男の人の前だと態度違うからね。
店長もあの調子で甘えられたら何も言えないんじゃない?
……よく分からないけど」
「でも、すっごいムカつきますよね!」
あたしの言いたい事をハッキリと言ってのけた香奈ちゃんを見て、氷を拾いながら笑う。
「そうだね」
香奈ちゃんに笑顔を作りながらも……、心の中では佐伯さんへのやきもちと嫌悪感でいっぱいだった。
だけど、それを素直に表に出すことが、どうしても出来なくて。
「先輩って大人っていうか……落ち着いてますよね。
あたしなんか佐伯さんと一緒のシフトってだけでイライラしちゃうのに……。よく我慢できますね」
「そんな事ないよ。あたしもイライラするし。
っていうか、『先輩』はやめて?
タメなんだから敬語もいらないよ?」
ようやく拾い終わった氷をビニール袋に入れ立ち上がる。
氷に触れていた手は冷え切っていて、感覚があまりなかった。
「うーん……でもバイト歴は先輩の方が長いから。それに……」
香奈ちゃんも立ち上がって、周りを見渡してからあたしに耳打ちをした。
「実はあたし中三なんです。どうしてもお金が必要で……。黙っててもらえます?」
一瞬びっくりしたけど、香奈ちゃんがあまりにも不安そうな顔をするから、微笑んで見せた。
「もちろん」
『お金が必要』
理由はわからないけど、あたし自身、気持ちはよく分かるから。
だから何か聞こうとも思わなかった。



