「でも、奈緒ちゃん。よくそんな事思い出したね。
事件のショックで、忘れてるかと思ってた」
「うん。忘れてたみたいなんだけど、今日急に思い出して……3年前の事、無意識に思い出さないようにしてたから、考えないようにしてただけなのかも。
少しだけど……前を向けてきたのかも」
「あれだけの事を経験したらその辺りの記憶があいまいになっても仕方ないものね。
おばあちゃんも、前後一ヶ月くらいの事はよく覚えていないもの。
……でも、よかった。奈緒ちゃんが少しでも立ち直れたなら」
「……うん」
嬉しそうに微笑むおばあちゃんに、返事をしながらお茶を口に運ぶ。
しばらく静かな時間が流れて……
ずっとお茶に視線を落としていたおばあちゃんが、思い切ったように口を開いた。
「ただね……」
視線を移すと、少し気まずそうに真剣な表情を向けるおばあちゃんの姿があって。
あたしは黙ってその続きを待った。
「奈緒ちゃんは知る必要ないと思うんだけど……もしこの先、人から聞かされたりしたら、奈緒ちゃん本人が知らないのも可哀想だから……。
ただ、これを聞いても、自分を責める事だけはしないって約束して欲しいの」
「……うん」
おばあちゃんが、ゆっくりとした口調で話す言葉に、落ち着いて耳を傾けた。
お茶の優しい湯気が、天井へと上っていく。
部屋に飾られた三人の写真が、優しく笑いかけていた。



