イジワルな恋人



今まで、この事は本当に一度も思い出した事なかったのに。


もしかしたら……

あの事件から、少し、気持ちが解放された証拠かもしれない。


あたしが、自分のせいだって、意固地に思い出さないようにしていた事件。

それをきちんと見つめる事ができるようになったから、このことを思い出したのかもしれない。


亮の言葉が、亮の存在が……、

あたしの気持ちをゆっくり溶かしてくれていた。



今になってみれば、

あたしはあの事件にこだわりすぎてたんだと思う。


だから、何も見えてなかった。


おばあちゃんや梓の優しさも、真ちゃんの心配も、中澤先輩の気持ちも。

……自分のことさえ、きっと見えてなかった。


お父さん達の事も……思い出さないようにしてた。


だけど……、思い返してみれば楽しい思い出ばかりが蘇る。


過ごした家はもうないけど。

アルバムも、何もないけど……。


お父さん達が、あの事件で死んじゃったのは紛れもない事実だけど。



それでも思い出すのは、三人の笑顔だから。


みんなで過ごしたキラキラした時間に、明るい笑い声。


悲しい事なんか一つもない。


だから大丈夫。

大丈夫。





もう、目を逸らさない。

一人じゃないから。