イジワルな恋人



「そういえば、今日の体育、バスケだって。

どうせならもっと楽なのがよかったよね。なんかずっとコートを走り回ってなくちゃだし嫌だなぁ」


……バスケか。

バスケ……。

そういえば―――……。


頭の中に、今まで忘れていた記憶がふっと蘇る。

なんで忘れてたのかも分からない記憶が、急に浮かび上がってきて、小さく顔をしかめた。


「そういえば、あたし中学入ってしばらく、体育の授業がバスケだったんだけど……。

一度、頭にボールが思いっきり当たったんだ。

その衝撃で、少しの間の記憶が抜けてるんだよね」


懐かしく感じながら話した事に、梓が目を丸くする。


「それって……記憶喪失ってこと?!」

「そんな大げさじゃないよ。ボールが当たって脳震盪で倒れたんだけど、その後から一週間後くらいまでの事を覚えてないだけ」


その間、どんな風に過ごしていたのか、まったく覚えていない。

それどころか、今までは脳震盪で倒れた事自体も忘れてた。



なんで忘れてたんだろう。

……その後すぐにあの事件があったから、その記憶に隠れてたのかな。


「ふぅん。でもそんな簡単に記憶なんてなくなっちゃうんだね」

「ね、びっくりだよね」


その後、何のきっかけで思い出したのかはよくわからないけど……。

確か、気が付いたら、体育館でバスケしてたハズが教室で授業受けてて……。

日にちも進んでた。


とりあえず後遺症は残らないだろうって、色んな検査を受けて通院を繰り返した後、先生から説明を受けた。