イジワルな恋人



「そ、それより佐伯さんは? ちゃんと仕事教えてもらわないとダメですよ」


そんな事言うなんて、自分でも可愛くないって思う。


でも、笑顔とは裏腹な気持ちがあるなんて、とてもじゃないけど言えなくて……。

なるべく自然になるように微笑んで見せた。


「仕事ねぇ……」


あたしの言葉が本心じゃない事に気付いたのか、亮はニっと笑って近づく。

そして、耳元で小声で言う。


「……じゃあ俺は、奈緒が素直になるように教え込まなきゃな。

もちろん二人っきりで」

「……っ!」


赤くなったあたしを見て、亮が口の端をあげる。


カっと熱くなった頬に、手を当てる。

クーラーの効いた店内で、すっかり冷えきった手をあてても、熱が引きそうになかった。


「あー、もぉ、桜木くんったら。トイレ行ってる間にどっか行っちゃうから探しちゃったよ」


佐伯さんが少し膨れた顔を見せながら、小走りで亮に近寄って腕に触る。


無臭だった受付が、あっという間に香水臭くなった。


……トイレって言っても、メイク直しが目的だったんだな。

戻ってきた佐伯さんの気合いの入ったメイクが、それを物語っていた。