事務室から出てきた店長が、あたしと佐伯さんに笑顔で亮を紹介した。
「今日から新しく入った桜木君。色々教えてあげてな。
でも恋愛はダメだからな。いつでも多少の緊張感を持ってないと、いい仕事はできないから。恋愛関係になって仕事が、なぁなぁになっちゃ困るから、そこんとこよろしくな」
……そういう理由で禁止だったんだ。
初めて聞く『恋愛厳禁』の理由に感心しているあたしの隣で、佐伯さんが甘えた声で返事をした。
「はぁい。桜木くん、よろしくね。美沙って呼んでね」
「……はい」
あまりにもテンションの違う二人に、なんだか少しおかしくなる。
「水谷も、自己紹介して。あ、水谷そういえば遅刻だな。
打ち上げだっけ? 珍しいな、おまえが遅刻するなんて」
「あ、はい。すみません。ちょっと時間忘れてて……」
「別にいいよ。連絡も入れてくれてるし。おまえは普段から頑張ってるんだから、たまの遅刻ぐらいで気にするな。
それより、桜木に、あいさつして」
店長の言葉に少し戸惑いながら、亮にぎこちないあいさつする。
「……水谷奈緒です。よろしくお願いします」
「よろしく、先輩」
緊張を隠せないあたしとは逆に、亮は余裕のある笑みを浮かべていて……。
この状況を明らかに楽しんでいる亮に、口を尖らせた。



