「いや、本気。北村、俺がバイトしたら親父何か言ってくるかな」


あたしは、呆然としながら、北村さんの返事を待っていた。


「いえ、旦那様は亮様には社会性に富む人間になって欲しいと思っていらっしゃいますので……。

いい社会勉強になりますし、賛成されると思います」


……ああ、そっか。

だから亮、お金持ちのくせに公立高校なんて通ってるんだ。


ずっと不思議だった事が、北村さんの言葉でようやく分かった。

こんな車で送り迎えするほどのお金持ちが公立に通っているのは、誰から見ても不自然だったし。


『学校を乗っ取るために内密調査のために、父親から送り込まれた』とか、『私立中学で問題起こしすぎて受け入れ先がなかった』とか……。

数多き亮の噂の中には、そんなものまであった。

でも極めて健全な理由で、胸を撫で下ろす。


「じゃあバイトしてみっかな。なんか面接とかあんだろ? 

今日急に行ってもしてくれんの?」


なんだか本格的に話が進み始めていることに少し戸惑いながら首を傾げる。


「え……場所によるんじゃない? どういう所がいいの?

亮、短気だし接客業はやめた方が……。でも、地道な作業の繰り返しとかも向かなそうだし……」

「おまえと同じとこに決まってんだろ」


亮が笑いながら言った言葉に、思わず言葉に詰まる。