イジワルな恋人



「あんな事ってなんだよ」


怒ったような声に、中澤先輩は少し笑って……、その後、真剣な顔を亮に向けた。


「……別れてからも、ずっと好きだったって告白したんだよ。俺を選んで欲しいって。

……桜木に義理立てる必要もないだろ?」


亮と中澤先輩の視線が空中でぶつかって……、

少しの沈黙の後、亮は中澤先輩を睨みつけると、食堂を出て行く。


「あ、亮!」


あたしも亮の後を追いかけて、食堂を出た。

廊下に出ると、数メートルくらい先を歩く亮が見えて、その後ろ姿に呼びかける。


「亮、待って!」


振り返らない亮に、少し息をきらせて追いつく。

それでも足を止めてはくれなくて……少し戸惑いながら腕を掴んだ。


「……亮? なんで昨日から怒ってるの? 

あたし何かした……?」


ようやく足を止めてくれた亮を見上げても、顔を背けてるから表情は見えなくて。

不安ばかりが募っていく。


「……亮?」


何も言わない亮に、遠慮がちに声をかける。


「……あき」


そして、二度目に呼びかけた時。

少しの衝撃と、背中にあたるひんやりとしたコンクリートを感じた。


そして、目の前には亮の顔……。

いつの間にか壁に追い込まれていたあたしの目に、近づく亮の顔が映って……



そのまま二人の距離がなくなった。