イジワルな恋人



【亮SIDE】


「奈緒ちゃん今日来てるの?」


机に鞄を置いた俺に、武史が話しかけた。

始業までにはまだ余裕があるのに、教室にはもうほとんどの生徒が揃って賑わっていた。


「ああ」

「あのさ、昨日のニュースでわかったと思うから言うけど……前言いかけた奈緒ちゃんの噂、あれさ」

「いらねぇよ」


少し気まずそうに言い出した武史の言葉を遮る。


「どうせ放火の事だろ? ……今さら蒸し返したってしょうがねぇし」


その言葉に武史が笑顔になる。


「そうだな! ……奈緒ちゃんさ、なんか心を閉じてるような、わざと周りを近寄らせないような感じだったけど、亮と付き合うようになって変わったよな。

やっぱ好きな人ができると変わるよなぁ」



『そんな事ない』

出かけた言葉を呑み込んだ。


……別にあいつは、俺が好きなわけじゃねぇし。


それに……、俺にだって心を閉ざしてる。

昨日泣いた理由も、俺にはわかんねぇし。


あいつの心の中に、誰がいるのかも。


俺がいるのかさえわかんねぇし……。



窓に目を向けると、嫌んなるくらいの晴れ渡った空が広がっていた。

眩しい太陽に、目を細める。