「自分の気持ちに素直になるのが正しいって思う。
でもそれは自分に都合がいいように考えてるだけに思えて……自分勝手に中澤先輩を裏切るみたいで、嫌なんだ」
「うん……だからさ、奈緒が自分のせいだと思うなら、つらくても、先輩との事を……先輩の想いに応えられなかった事を、忘れないでいる事も一つの償いじゃないかな」
梓は、あたしを見つめてにこりと笑う。
梓の後ろにある屋上のドアから、太陽の光が柔らかく差し込んでいた。
「奈緒が罪悪感を感じるのはわかるけど……。
だからって気持ちに応えるのは間違ってるよ。
中澤先輩だって、罪悪感だとか、同情で一緒にいたくて告白してきたんじゃないと思うし。
奈緒が付き合えないって思うなら、嘘じゃない本心をちゃんと伝える事が、告白してきてくれた中澤先輩への誠意なんだと思うけどな。
それに、奈緒はもっと自分の気持ちを大事にしなくちゃダメ!
何を聞いたって譲れない気持ち、奈緒にだってあるでしょ?
桜木先輩への気持ちがそうなんじゃないの?」
力強くて真っ直ぐな梓の言葉を聞いて、涙と一緒に笑みがこぼれる。
「奈緒ー?」
梓が不思議そうに見ているのに気付いて、目尻の涙を指で拭いながら首を振る。
「ごめん。……なんか、なんで今まで梓に何も相談しなかったんだろうって、思って……」
こんなに真剣な言葉をくれる梓を、なんで頼らなかったんだろう。
そう思ったら涙がでてきた。



