イジワルな恋人



「でも……」

「あたしは、その気持ちを大事にした方がいいと思う」


振り向くと、梓が真っ直ぐにあたしを見ていた。


「今まで、奈緒がどんなつらい思いで自分を抑えてたのかは、わかってあげられないけど……。

それが間違いだって事に気付いたって、さっき言ったよね? 

今回、桜木先輩より中澤先輩を選んだら、桜木先輩を選ばなかったら、今までと何も変わらないよ」

「そうだけど……」

「だって、桜木先輩への気持ちを抑えつけるって事でしょ? 

自分の本当の気持ちを、誰にも言わないで隠すって事でしょ? 

それって、今までと一緒じゃない?」


見つめる先で、梓が微笑む。


「中澤先輩だってそんな事望んでないんじゃない? 

罪悪感から一緒にいられたって……中澤先輩は、嬉しくないと思う」


梓の言葉が、スーッと心の中に落ちていく。

……梓の言うとおりだ。きっと、それが正しい。

……―――だけど。


「だけど……、

亮と一緒にいたいからって、中澤先輩の気持ちを踏みにじるのは……、つらいよ」


あたしが気付かない間、ずっとあたしを見ていてくれた先輩。


先輩にもらった優しさを、裏切る事が、つらくて仕方ない。