イジワルな恋人



鏡の中の自分を見つめて、玄関をでる前に深呼吸する。

逸る気持ちを落ち着かせるために。


気持ちを伝えないって決めたって、亮に会えるのは嬉しいに決まってる。


深い呼吸を繰り返した後ゆっくり玄関のドアを開けると、朝の日差しが視界に飛び込んでくる。

そして、細めた目に映るのは……亮の車。


少し緊張しながら車に乗った途端、亮の香りがあたしを包み込む。

今まではあまり意識してなかった香りが、やけに胸を締め付けた。


「……おはよ」

「……はよ」


亮の香りが散らばる空間に、頭の芯が痺れるような感覚に襲われる。

必死に言葉を探しても、今までどんな話をしてきたのか分からない。

どんな態度で接していたのかさえ分からなくて。


動揺しながらもそぉっと亮を見上げた瞬間……、亮と目が合って、慌てて目を逸らした。

うつむこうとしたのに、伸びてきた亮の手に顎をあげられて……無理矢理顔を近づけられた。


あと10cmくらいで、唇が重なりそうな距離に鼓動が跳ねる。


「なっ、なに?」


聞こえちゃいそうなドキドキを隠すために、わざと大声で言った。