イジワルな恋人



【奈緒SIDE】


桜木先輩、びっくりした顔してたなー……。

キャバクラ脇の細い道を抜けて辿り着いた、バイト先の喫茶店は、時間が時間だからか、お客さんは誰もいない。


……それにしても、桜木先輩、何の用だったんだろう。

手が早いって聞いてたのに、手どころか、目だってあまり合わせようとしなかったし……。

一体、何のために話しかけてきたんだろ。


そんな事を考えてから、もう一つの疑問である店内を見渡す。

なんとか16時に間に合ったのに、肝心の店長がいない。

……なんでいないんだろう。


――チリン。


ドアの鈴を鳴らしながら入ってきた店長に、あたしは口を尖らせた。


「あ、店長! どこ行ってたんですか?

店番誰もいませんでしたよ。……お客さんもいなかったけど」


あたしの働く喫茶店は小さいお店で、大体、店長とバイト一人っていうシフトを組む。

バイトは三人いるらしいけど、交代の時間にしか顔を合わせないからよく知らない。


「あ、奈緒ちゃん。いや、今ゴミ捨てに行ったら、表の通りに高級車が止まってて。

いいなぁと思って眺めてたら、キャバクラから出てきた男の子が乗り込んでた」