車に乗り込むと、しばらくして北村が車に戻ってきて、不思議そうに話し出した。
「あの店には本当に水谷様はいませんでした。確かに入っていったように見えたのですが……」
「店側が嘘ついてるって事は?」
「いえ。それはないと思います。店長を呼んで店の存続をちらつかせながら聞いたので、間違いないかと。
この辺は旦那様の顔が利きますから」
「……ふぅん。じゃあとりあえず車出せ。今日は帰る」
窓の外に目を向けて、自分の顔の異変に気付く。
店員に殴られた左頬が切れて、そこから血が滲んでいた。
殴られた時か……。
あいつのせいでこんな傷まで……くそ。
顔を歪めると微かに傷む傷に、イライラしながら家路を急ぐ車に揺られた。



