イジワルな恋人



店員はカウンターの椅子を巻き込みながら、派手な音を立てて床に倒れこむ。

別にケンカしにきたんじゃねぇんだけど……。

こいつ、もう俺には本当のこと言わねぇよなぁ。


自分の手の早さに呆れながら、取り出したケータイで北村を呼び出す。


「ちょっと店ん中に来い。話つけて欲しい事が……」


話が途切れたのは、受けた衝撃が原因だった。

左頬に受けた衝撃からバランスを崩してテーブルに手をつく。

振り返ると、店員が気持ちの悪い笑みを浮かべていた。


「……てめぇ、俺を殴るなんていい度胸してんなぁ」


俺は、口許を手の甲で拭いながら、ニっと口の端を吊り上げて笑い―――……。



店に入ってきた北村は、何があったのかをすぐに把握したようだった。

すっかり気を失って倒れている店員を見てから、視線を俺に移す。

壁に寄りかかりながら笑って見せると、北村は困り顔でため息をついてから落ち着いた声で言う。


「私が話を聞きますから、亮様は車に戻っていてください」


北村に言われて、のびている店員を横目で眺めながら店を出る。