イジワルな恋人



「……なんかあった?」


いつもと違う様子のあたしをおかしく思ったのか、亮が聞く。

亮の腕は少し曲げられていて……、そのせいで、低い声がすぐ近くから耳に響く。


「……なんにもない」


あたしの答えに、亮が小さくため息をついたのが分かった。


「なに怒ってんの? 俺何かした?」


見つめている亮の視線に気付いて、あたしは硬く口を結ぶ。


少しの間、沈黙の気まずい空気が二人を包んだ。

亮はずっとあたしを見つめていて……。

その視線があたしの胸を高鳴らせて追い詰めていく。


そして、耐え切れなくなった気持ちに、あたしは口を開いた。


「……だって、山本さんを選んだんだもん」

「……は?」


横を向いたまま、不貞腐れて言ったあたしに、亮が聞き返す。


「だからっ……、山本さんを選んでおんぶしてたでしょ!

……レースが終わっても、応援席まで一緒に帰ってきてた……。仲良さそうにしてた……っ」


目に涙が浮かぶ。


……あたしだってあの時、同じ場所にいたのに……。

亮が手を掴んだのは、あたしじゃなかった……。


それが、悲しかった。