イジワルな恋人



「……あたしウーロン茶買ってくる」

「あ、ごめんね。あたしが飲んじゃったから。一緒に行くよ」


梓がお財布をジャージのポケットから取り出す。


「うん……。でも梓、800m出るでしょ?

次、召集かかると思うし買ってくるよ。ウーロン茶?」


召集場に視線を移すと、召集を知らせるプラカードに『800m女子』の文字が書いてあるのが見えた。


「あー……じゃあお願い!

はいこれ。っていうか800かなり面倒くさいなー。長すぎ」


文句を言う梓から140円を受け取って、急いで自販機のある中庭まで走った。


……あの場所から、早く抜け出したかった。


他の女の子と笑う亮を、見たくなかった……。





……―――ガコン。


二本買ったウーロン茶を抱えたまま、自販機を見つめる。

賑やかなグランドとは違って、中庭は静まり返っていた。


いつもなら賑わっているはずのベンチも、今日は主をなくしてなんだか寂しそうに見える。


そこにあたしのため息だけが寂しく響いた。