イジワルな恋人



「奈緒! こっち来るよ!」

「……―――っ」


苦しかったはずの胸が、高鳴りだす。

身体が金縛りにでもあったように動かない。


ただただ、

亮しか見えなくて―――……。



……でも、亮が視線を向けていたのは、あたしじゃなかった。

あたしの二列前にいた女の子をコース上に引っ張り出すと、その女の子をおんぶして走り出す。


あたしと、同じクラスの女の子を……。


その光景を見て、身体がますます動かなくなった。


まるで……、

心まで固まってしまったように何も考えられない……。

何も、感じない。


一着でゴールして、亮の背中で嬉しそうに笑う女の子。

女の子を気遣いながら下ろす、亮の姿。


固まった心が、

壊れそうだった……。






「………………だよねぇ。本当に憧れちゃう」


放心状態のまま、ゴールした亮を見つめていたあたしは、梓の声に我に返る。


「ごめん、何……」


聞き返そうとしたけど、梓を振り返ると、その向こう側に、青組の応援席に向かって歩いてくる亮と女の子の姿が見えて―――……。


目を逸らした。