【奈緒SIDE】
「奈緒、何赤い顔してるの?」
「ひゃ!」
梓が後ろからわき腹を突つくから変な声が出る。
「もー……赤い顔なんかしてないよ」
「桜木先輩にハチマキ渡せた?」
「うん。やっぱり持ってなかった。
本当にしょうがないよね」
あたしがため息混じりに言うと、梓が微笑みながら口を開く。
「……なんか、奈緒、本当に桜木先輩の事好きなんだね」
その言葉にあたしは顔を赤くして反発する。
「違うよっ! さっきだって、亮がハチマキ結んでなんて言うからちょっと緊張しちゃっただけで、ドキドキしたのは、好きで、とかじゃないし……」
「好きって理由以外で、なんでドキドキするの?
っていうか、付き合ってるんだから好きで当たり前じゃん?」
梓の言葉に口を押さえる。
……しまった。付き合ってる事になってるんだった。
『……ずっと一緒にいて、お互い意識しだしたりしたら……、どうする?』
不意に、いつかの亮の言葉が蘇る。
……いや、違う。
違わないと……困る。
亮を思い出しただけで騒ぎ出す心臓を隠したくて、あたしは胸のあたりで手を握りしめた。
違わないと、困る。
困るよ―――……。



