口の減らない武史にもう一発蹴りを入れようとした時、武史が真面目な顔して口を開いた。
「でも男苦手って噂が本当なら、一緒に流れてたあの噂も本当なんかな……」
武史が召集場に行った奈緒を見つめる。
賑わう召集所に、奈緒の姿はもうかなり小さくしか見えなかった。
「なんだよ、噂って」
俺の問いに、武史が驚いた表情を浮かべて、すぐに笑い出す。
「亮、あんま教室いないからな。
一時期かなり噂になったのに知らないなんてどんだけサボってるんだよ」
「んな事より、どんな噂だか教えろよ」
俺の言葉に、笑ってた武史が少し真面目な顔つきになる。
「あー……なんだっけな? 忘れちゃった。
人の噂も七十五日って言うしね」
おどける武史に、4発目の蹴りが入る。
「いて!」
……ぜってぇ何か隠してやがる。
そう思いながらも、武史が一瞬だけ見せた真剣な顔が気になって、言葉を呑み込んだ。
いつもふざけている武史ですらためらう奈緒の噂が、いいモンのはずがない。
それが分かったから聞かなかった。



