イジワルな恋人



「奈緒ちゃん、俺もやって?」

「あ、はい!」


心臓の音を隠したいあたしには、関先輩の言葉が助け舟のように感じた。

すぐに関先輩のハチマキを結ぶ。


……このままじゃ、絶対に聞こえちゃう。

亮に背中を向けながら、うるさい心臓が早く静まるように願った。


「あ、もう行かなくちゃ……100m走の召集、始まってる」


わざと亮と目を合わせないようにして言う。


「奈緒ちゃん100m出るの? 同じチームだし応援するね」


関先輩に笑顔を返して、あたしは召集場に向かって走り出す。


「奈緒!」


突然響いた亮の声に驚いて……、あたしは一瞬体をすくませた。


「……頑張れよ」


……振り向いて見えたのは、亮の優しい笑顔。



その笑顔に、心臓が再び速いリズムで動き出す。