イジワルな恋人



「あの、あたし急いでるんで」


なるべく関わりたくなくてそう断って歩き出す。

10人同時進行男なんて噂されてる人となんて関わったって、絶対にいい事なんてない。

そう思って歩き出したのに。


……あたしの歩く隣を、桜木先輩の車が併走する。

半分開けられた窓からは、桜木先輩がニヤリと意地の悪い笑みを浮かべているのが見えた。

まるで、挑発でもしているような、そんな笑み。


「……いいの? かなり目立ってるけど?」


桜木先輩の言葉に周りを見回して、やたらと視線を集めている事に気が付く。

桜木先輩の車に並ばれてるから……?

下校時間通学路だけあって、そこら中から送られる視線が痛い。


「この車、目立つらしいからな」

「……っ」


何、この人……っ!!


桜木先輩の挑発に、あたしは車のドアを開けて、勢いよく乗り込んだ。