なんであたしの名前知ってるんだろ……。
少し警戒しながら見ていると、スーツ姿のおじさんが柔らかく微笑む。
その笑顔がとても上品で、『おじさん』って呼ぶのにも少し抵抗があるほどだった。
『紳士』って言葉の方がしっくりきそう。
「亮様がお待ちです。こちらへ……」
おじさんの言葉に首を傾げるも、すでに歩き出しているおじさんに気付いて、その後に続く。
「あの、意味がわからないんですが……」
黒い車の横まできて止まったおじさんは、あたしに優しく微笑んで、後部座席のドアを開ける。
「あの、ですから……」
「……―――乗れよ」
開けられた車の中から聞こえてきた低い声に、あたしは恐る恐る車の中を覗いてみる。
「よぅ」
「……―――あ、」
そこにいたのは、昼休みに屋上で見たチャラチャラした男。
高級車っぽい車に、整った外見。その二つの条件に、この人が桜木先輩だって事に気付く。



