イジワルな恋人



【奈緒SIDE】


時間より少し遅れて終わった6時間目。

黒板の上にかかっている時計を横目に、あたしは鞄を持って席を立った。


「奈緒―、今日寄り道していかない?
 
愛がね、ケーキバイキングの割引券持ってるんだって。自腹600円で食べ放題!」


満面の笑みで言う梓に、あたしは顔の前で両手を合わせる。


「うー……行きたいけどバイトなんだ。また今度誘って」

「あ、そっか。頑張ってね、今度覗きいくね」


梓に笑顔を返して、教室を出る。学校からバイト先まで走って15分。

いつもなら間に合うけど、今日は授業が延びたがらなぁ……。

急いで靴を履き替えて、校門にさしかかったところで声をかけられた。


「水谷 奈緒様ですか?」


声の主は50代に見えるおじさん。


「……そうですけど、何か?」


学校には場違いな黒いスーツ姿に戸惑いながら答える。