イジワルな恋人



「奈緒!」


賀川が、何度も奈緒を呼ぶ。


『奈緒』

賀川が奈緒を呼び捨てで呼んでいるのを、俺は少し離れたところから見ていた。


その光景は、誰から見ても……俺から見ても。


教師と生徒の関係には見えなかった……。






賀川が奈緒を抱き抱えて校舎の中へ入っていった途端、練習のために集まっていた生徒達がいっせいに騒ぎ出した。


「何? 貧血?」

「っていうか賀川ちゃん、水谷さんの事呼び捨てじゃなかった?」

「あの二人ってそういう関係なの?!」

「水谷、桜木先輩と賀川二股かけてたんじゃん?」

「男苦手とか言いながら、それも男釣るための演技なんだ?」

「よくやるよねー」


生徒達がざわめく。

それはいつの間にか奈緒の悪口へと変わっていた。


……勝手なこと言いやがって。

言いたい放題に奈緒を罵るグループを睨みつける。

近づこうと、足を一歩出した瞬間……。


「いいかげんにして!!」


女の声がグランドに響いた。


面白がって騒いでいた生徒が静まり返り、その視線がいっせいに叫んだ女に集まる。



さっきまで奈緒と話してた、『梓』とかいう女に。