イジワルな恋人



【奈緒SIDE】


「……今もびっくりしただけで、亮に触られた事が嫌だったわけじゃなくて……、

だから、その……、傷つけちゃったならごめんね……?」


……あたし何言ってるんだろう。

こんなの、説明する必要なんかないのに。

……だけど、亮が傷ついた目をするから。

悲しそうにあたしを見るから。


なんでだか、亮が離れていっちゃうみたいで……嫌だった。


最後はうつむきながら言ったあたしに、亮がゆっくり近づく。


「俺が触んの、嫌じゃねぇの?」

「……う、うん」

「それってもっと触って欲しいって事?」


あたしの前にしゃがんだ亮が、意地悪に笑う。

亮の言葉に元から赤かったあたしの頬に熱がこもる。


「ち、違うっ! そんな意味じゃないよ!」


顔を赤くして慌てるあたしを見て亮が微笑む。

亮の優しい微笑みに言葉を失うと、そのまま亮の胸に引き寄せられた。


そして、亮がおでこに唇を当てる。


「……なに?」

「……リハビリ」


戸惑いながら聞くと、亮が微笑みながら答えた。



梅雨入り前の6月の空は雲が多くて、屋上全体を雲の隙間から覗く太陽の光が柔らかく包んでいた。