「……昔、ひどい事されたから」
『ひどい事って?』
そう言おうとした俺の目に、今にも泣き出しそうなくらい悲しそうな奈緒が映る。
奈緒の表情に、俺は握ったままだった奈緒の手を離した。
「……んな顔すんな。おまえが怖いなら、もう触んねぇよ」
俺の行為が奈緒を怖がらせたんだと思って、立ち上がって距離をとる。
だけど、歩き出した俺を奈緒が後ろから呼び止めた。
「あ、違うのっ!」
奈緒の声に足を止める。
「男の人は……確かに苦手だし、怖いけど……
でも、亮は別……。
自分でもよく分からないけど……亮は、怖くない……」
奈緒の言葉に、俺は耳を疑いながら振り返る。
視線の先には、赤い顔をしながら必死に俺を見る、奈緒の姿があった。



