【奈緒SIDE】
「……奈緒」
珍しく名前を呼ばれて、少しびっくりしながら亮を見る。
視線の先では、真剣な顔をした亮があたしを見つめていた。
「……なに?」
そんな亮に恐る恐る聞き返す。
亮が名前で呼ぶことなんて、ほとんどなかったのに……。
頭に、昨日の夜のレストランでの会話が蘇る。
あの時感じた、ドキドキも―――……。
「……―――お、先客があったか」
二人の沈黙を破って屋上のドアを開けたのは……。
「あれ、賀川先生。どうしたの?」
真ちゃんの姿に、あたしはドキドキを隠すように笑顔を向ける。
「ちょっと非難」
真ちゃんも笑顔を返しながら、あたしと亮に近づいた。
「あ、わかった。女の子から逃げてきたんだ。
モテるもんね、賀川先生」
「まぁ、そういう事にしとくか。お、うまそうじゃん」
やけに大人しい亮が気になりながらも、ハンバーガーを覗き込む真ちゃんに笑顔を向ける。
「あ、一個食べる? 亮に作りすぎだって言われてたとこなんだ」
そう言って真ちゃんに渡そうとしたハンバーガーを、静かだった亮が強引に奪う。
「……俺、食うし」
少し怒ってるみたいな亮に、あたしは戸惑いながら首を傾げた。



