イジワルな恋人



ケータイをポケットにしまおうとした時、奈緒が何か思いついたように俺を見た。


「そういえば、あたし亮のケータイ知らない」

「ああ、俺持ってねぇから」


不思議そうに見つめてきた奈緒は、俺の答えに驚いて一瞬言葉を失う。


「え、なんで?! だってみんな持ってるよ?!」

「いや、持ってたんだけど、やたら鳴ってうるせぇから捨てた」


少し黙った奈緒を観察するように見ていると、その表情は驚きから不貞腐れた顔に変わる。

それを疑問に思って聞こうとすると、奈緒の文句が先に飛んできた。


「みんなに番号教えるからだよ。自業自得!」

「……おまえなんか怒ってねぇ?」


顔を背けて言う奈緒を覗き込むと、奈緒の顔はどんどん赤く染まっていく。

それを隠すように、奈緒は完全に俺に背中を向けた。


「……っ、あたし教室戻らなきゃだから。

……今日、駅の近くの交差点でティッシュ配りのバイトになったから、帰り、待ってなくていいから」


そしてそれだけ言って、逃げるようにドアを開けて階段を下りる。