クレイジーチェリー

「狂ったってこと?」
「んー、それは分からない。ただまぁ、物理的に考えても蛾が月に行けるわけないよね…。」
「アハハハ…」
あたしはぞっとした。目に映る兵藤は自分で話して自分で答えて自分で突っ込みを入れて、しかも笑い出すのだ。足がガクガクと震えた。入れ替わりする表情も怖いが、内容も怖いのだ。しかも兵藤には姉貴なんていない。彼女の家族は母親と妹だけだ。兵藤は一人二役を続ける…     元の兵藤の飄々とした表情に戻って話す。違う表情の兵藤が答える。肉体は一つだが、裏と表がある…表裏一体? 不気味な会話は続いた。「只ね、この物語にはまだ続きがあってね、母親の蛾も妹の蛾も大人になって毎日電灯に身を焦がす生活を一生懸命続けるのよね…。」