注射器だった。伊藤洋子は針の先から液体を数滴押し出すと兵藤の左手に刺した。兵藤は「サンキュー」と答えると、そのまま談笑を続けた。やっぱり不良だったんだなと思った。兵藤の目は虚ろで、視線は宙に浮いていた。関わりたくないので視線を逸らして談笑を続けた。