富山直樹が口を開いた。「ムジュンてどーゆー意味なんやろ。」全員無言になった。あたしは途中から駆けつけてくれた佐々木に尋ねた。「あなたも何か知っているの?病院内で兵藤についての事実を知らないのは、あたしだけなの?もしかして竹中医師が……?」佐々木はしばらく口を開かなかった。そして何かを考えるように視線を右上に向けて「考えすぎよ…」と言った。佐々木は男性看護師三人と談笑を始めた。有線放送のクラシック音楽を聞きながら…、好きな音楽や好きな本の話をした。客観的には佐々木は良い女性だった。あたしは目に映る世界に酔った。数時間が経ったであろうか。不意に伊藤洋一が黄色い鞄の中から何かを取りだした。



