最初からどうして思い浮かばなかったんだろう。

何かあった時のためにと、アパートの合鍵を実家に預けていたことを今になって思い出すなんて。



「実家って、駅の近く?」



沈黙を破るように、結崎さんが聞く。



「いえ、実家はT市です。今なら終電に間に合うかもって……」

「いいよ、実家まで送るよ」

「いえ、そこまで迷惑かけられません」



あたしがキッパリと断ると、結崎さんは車を道端に止め、あたしの顔を真っ直ぐに見て言った。



「中途半端に駅に送らせて終わりにすることの方が迷惑だよ」

「……結崎さん」



怒っているのかもしれないのだろうけど、あまりにも冷静で、いつもと同じようなゆっくりとした口調。