結崎さんに促されて助手席のドアを開ける。

あたしが乗り込むのと同時に運転席のドアが開いて、結崎さんも乗ってきた。


結崎さんが車に乗った瞬間に、ふわりと漂う、優しい香り。

車の匂いなんかじゃなくて、それが結崎さんが身につけている香水なのだと思った。


そんな小さなことなのに。

あたしの胸は、また、キュッと締め付けられる。



「もう一回、カラオケに行ってみようか」



結崎さんの切ない香り。

突然声をかけられて現実に戻ったのと同時に、あたしは肝心なことを思い出した。



「結崎さん、実家が合鍵を持っているんです。駅の方に向かってもらえませんか?」

「駅の方?分かった」



エンジンがかかり、車が店を出る。

今なら最終の電車に間に合うはず。

そこから電車に乗って実家に行って、明日の朝一番の電車に乗れば1時限目の講義にきっと間に合う。